01 目覚め
そとは雨だったでしょう?お疲れさま。
ようこそおいでなさいました、私の城へ。
ここのところお客様がこなかったから随分退屈してましたの、本当に嬉しいことだわ。
そうね、来てくれてせっかくだものお話でもしましょうか。
歴史とは何でしょう。
歴史、いえ。今の社会でもよいのですけれど。
私が思うのは不条理についてです。不均衡。
カミュの”異邦人”や’シーシュポスの神話’はご存じ?
あそこまで深くは考えれませんけれど、考えることを触発される文章ですこと。
そしていつもここまでの見識に驚かされるのです。
私が見ているものはただの表面だけということを気づかされて、ね。
不条理は、後悔はどうして起こるのかしらね。
歴史は目を背けず反省すべきものなのでしょう?とある国の首相さんも同じことをいってたはずですわ。
あの言葉は正しいものと感じますわ・・・ゲーテの言葉も御存じ?
はい?歴史は、人生は悲惨なものだから私は目を背けることに決めた?ですか。
そう言った昔の思想家もいますわね。
でもそれが出来ない人はどうしたら良いのでしょうか。
人によって視点は違うものですわ。
・・・今起こっていることと昔起こったことの違いはなんなのでしょうか。
思い出せるのに今に浮かび上がらせることは不可能。
反復が出来ないその不条理に。
どれだけ抵抗したのでしょう。
ああ、ここはあくまで現実と断絶している場所でした。
現実とはですか?それは見えているものなんかでいいと思いますわ。
歴史に翻弄される人もいれば関わらずにいる人もいる。
元々守るためだったものが変質していく決まり。
私たちが見る過去はあくまで自身が想起させてるものであり、そこに意味を与えているものに違いありませんわ。
同じことを起こしえてもそれは反復とは異なるのです。
・・・
うん、なんだか疲れてきたなあ。ここらで終わりにしましょう。
私は被っていたベールをとる。
そうして私はこうつぶやくのです。
『まあ、一人芝居で今の内容なんて嘘ですけど』
だーれもいませんよーっとはあーっとため息を着つく。
そしていけないいけないと口元を抑える。
幸せが逃げていく、だっけ?
周りには志を得たと自分を騙していく人々が見えた。
知っている。こうやって騙して生きていくのだと。
その志は見えるようにして見た志しであり、その偽りを持って果てる。
何度も何度も思い知った。
それを妥協できたら、受け入れることができたならば、どれだけ幸せだっただろう。
その得られなくても騙して得られる喜びを得れたのならば私はどれだけ悔しく/安心しただろう。
このような思いがよく浮かび上がるものの、こんなものは私が考えて作った妄想であり私自身の想いではないはずだ。
だって私は気が付いたらここにいただけだ。それ以上の記憶はない。
だったら、なんでこんな言葉が言える。
私は私しか見ていない。
見ていたのかもしれないけれど、うろ覚えの感情、それは私のものと呼んでも良いのかは躊躇われた。
『まあ、そう言ったら何もかも無に帰する・・・きっと感情なんて多くの影響から生まれるものだ』
また慌てて口をふさぐ。
またため息をつきそうになった。
夜の読書時間はもう終わりねとつぶやく。
『いつも以上に支離滅裂な文章になっちゃったなあ。いったいどうやって文章あんなに変わるわけよ・・・』
ぱふっとふとんに倒れこんで意識して意識を消すように務める・・・って
こんなのやってるせいで意識なんて消えるわけないのだけど。
昼間なんかは寝ないように注意してるのに夜になると意識して眠りに入らないといけないなんてひどいなあと考える。
私は考えた。そう、考えたのだ。
+
+
+
『・・・・・・・・・おはよう、ございます』
寝ることは 意識が連続性を保ててないとするならば、連続性こそが自我ならば・・・。
寝ていることは死んでいることと同義なのだろうか。
何度も繰り返す問答だ。
いいや、そんなことがなくとも人々は変化する。
変化しないものはない。終わらないものはない。
それは等しく、正しく、進んでいくことだ。
ここには私以外はほとんどいない。
まるで私のためだけに作られた塔のよう。
もちろん何もすることはないので大抵は一人歩き回って物語を作ったり、今までに読んだ本の主人公なんかになりきってみたりする。
相変わらず窓の外は真っ暗で何も見えなかった。
『もしかしたら海の上に立っている幻影の塔だったりしてね』
ふと呟く。
昔読んだ本そういった本があったのだ。
まるで人がいるかのように振る舞い、助けを求め---現実を知った少女の話。
『いや、現実は知ってたなかった気がするぞ。」
心象につっこむ。
『んー、外にでも出てみようかな』
声に出す。時間概念もあやふやで自己さえ不確かな自分には声を出すことが自分を確認する行為に見えるのだ。
『よ、っと…』
ギイイとドアを開く。
『やっぱり、』
やっぱり外は暗く霧がかかっていた。
『これじゃあ外にでれないなあ!』
大げさなリアクションをしてみる。
状況はやっぱり変わらない。
むう、と頬を膨らませ建物の中に入る。
と、人影。
『あれ、・・・こんにちは、α。何かありました?』
返答は無視。華麗なるスルースキル。
『まあするーされてるわけじゃないんですけど。』
言ってため息をつく。
単純に外の現象と対話が不可能なのだ、彼らは。
人型といえど姿かたちが似ていようと反応なしならば意味などはなし。
くるーっと歩き気まわる。
いつも通り明るい塔。いいえ城かしら?
『こんにちはβ。』
むろん返事はない。けれどこちらの方が生きているもの、という感覚がある。
まるで魚のような生き物。けれど魚ではなくそれは、幽霊のようなものを連想させた。
手をβの前へ置く。
移動させる指につられてついてくるβ。
正直、こいつが一番わからない。
+
+
+
そこは白の世界だった。
周りに見えるのは壁。
階段のように空が見えないほどに高くその段毎に雪に覆われた石が置いてある。
まるで墓石のようだ。けれどそんな雰囲気を感じさせない。
彼処へはいけないな。と何故か感じる。
動けなかった。恐怖ではない。そんなものは此処には存在しない。
語弊があるかもしれない。それを感じてこそないのだと感じるのだから。
ただ、此処には何も無かった、自分が思ったのは懐かしさ。暖かみ、だろうか。
幼い子供だったというのに恐怖も何もなく1人で歩き出した。気がついたら数段上の場所にいて友達と会っていた。
歩く。見えたのは家。階段の物陰に其れはあった。でもちょっと可笑しいと思う。だって私が来たとき此処は周りすべて壁とそれに付属する階段しかなかったのだから。
分かった。彼処は暖かい場所だ、だからあの石は…願いの石、なんてものじゃないのだろうか。だって孤独な感じなんてなくて、本当に暖かくて、満ちていたのだから。
この風景はなんだろう。ずっと忘却出来ないまま抱えている。
何故か忘れたくはなかった。とても大切な場所に感じて。
一面の白ーーーいうなれば雪、美しかったのだ。あまりの光景に気がついたら声が出ていたほどの。そしてとても、愛おしく感じた場所だった。
雪は大好きだ。きっと雪を煩わしいと思っても。この景色が消えない限りずっと好きなのだと思うよ。
+
+
+
『私は、ξ。物事を変革させうる者。』
変革させ得るものは私にふさわしい。だって。ここでその現象を起こせるのは私だけなんだから。
慣れない言葉では今では自身のものに。
元々の私の名前は何かって?必要ないでしょう。ここで私と対話するものはいないのだし、いるならば自己と対話するのと同義です。
ため息をついて立ち上がる。
何度目になるかの再生。再起を繰り返す精神。
『とある文明は元々隔てた土地として実験してた説、ね』
そんなものだろうと納得している。
どこかでも聞いた。それが世界なんだと。
私自身が世界ならば・・・・その続きは何だったのか。
そして、それを言ったのは一体誰だったのか---
『あれ、β。また会ったね』
自身を裏付けるものとは。
私ははっきりと声に出す。
そうして、きっと自己の存在を肯定する。そう、自身で。
『へっへー犬とかいたらこんな感じなのかなあ』
とか言いつつβを撫でる。
よくわからない感触。
どちらかというと容姿は怖いし。
『現実にいたらこんなの・・・っ』
と言いかけて私は又問題に突き当たる。
『私やっぱり閉じ込められてるとかそういうのなのかなあ。』
なんで現実などという言葉が出てきたかということだ。
現実を想定しなければ出てこないはずの言葉だ。
私が多くの人間も見てないはずなんだけどと少し思案し、やはりため息をしそうな自分をたしなめる。
『うーむ』
頭をかしげる。
まあわからないものは分からないし。
無理なものは無理だし。
しばらくこの問題を放っておくことにしたのでした。
きっといつかそれは分かるのです。
+
+
+
その日は本が沢山落ちていた。
精神現象学?ペラペラとめくってみる。わけがわからない。純粋理性批判、実践理性批判、エセー・・・投影、曼荼羅?
とりあえずエポケー。
本を仕舞いましょう。
私は本を見に来たのではなく、落ちていたのだから片付けようとしたんです。
----希望は光であるとともに絶望でもあるのです。
----綺麗は汚い。汚いは綺麗。
----死は生に内包されるように。
----私はその醜さを持って行くのが耐えられなかった。
----希望が耐えられなかった。
----でもそんな矛盾するようなものを受けとめていく姿がとてもーーー美しいと感じたんだ。
いつか見るはずの、その光景。
+
+
+
ーーーそうしてまた日は続くのですね。
とI(ワタシ)はこっそり目を開ける。